「ちみがそ」の宿題

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『パシフィック・リム』 ギレルモ・デル・トロ

 

パシフィック・リム [Blu-ray]

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パシフィック・リム』(2013年)  監督:ギレルモ・デル・トロ 出演:チャーリー・ハナム 菊池凜子 ロン・パールマン

 ある日、太平洋の深海から突如巨大な生命体が出現した。“KAIJU”と名付けられた彼らは、大都市を次々と襲撃して容赦ない破壊を繰り返し、人類は滅亡の危機を迎える。そこで人類は世界中の英知を結集し、人型巨大兵器“イェーガー”を開発する。その操縦は2人のパイロットによって行われるが、イェーガーの能力を引き出すためには、パイロット同士の心を高い次元でシンクロさせる必要があった。当初は優勢を誇ったイェーガーだったが、出現するたびにパワーを増していくKAIJUたちの前に次第に苦戦を強いられていく。そんな中、かつてKAIJUとのバトルで兄を失い、失意のうちに戦線を離脱した名パイロット、ローリーが復帰を決意する。彼が乗る旧式イェーガー“ジプシー・デンジャー”の修復に当たるのは日本人研究者の森マコ。幼い頃にKAIJUに家族を殺された悲しい記憶に苦しめられていた。やがて彼女はローリーとの相性を買われ、ジプシー・デンジャーのパイロットに大抜擢されるのだったが…。
<allcinema>

 

 

登場人物たちに在るのは、「何故戦うか」ではなく「何故戦えないか」の葛藤である。パイロットや博士には使命があり、それぞれに役割は違う。自ら決断し、またその後にも選択は可能であるが、彼らにとって死地に向かうこと/命を差出すことに揺らぎはない。それは直接戦闘に関わらない博士たちにとっても。疑いも迷いもなく、パイロットはイェーガーを起動させる。また博士たちにとっては、好奇心やプライドより命は軽いのだ。博士コンビは、イェーガーに乗ることははい。乗る必要も無い。生身ままでKAIJUと対等なのであり、ゆえに彼らにとって戦いとは、自身の信じるものについてである。(近い未来の)結果としての人類の勝利や滅亡についてではなく、自らと向き合わざるを得ないもの、KAIJUの存在そのものこそが唯一彼らの信念を試している。そして揺らぎなく試練は乗り越えられる。博士2人の各々の行動が、別々であるはずの道が、その先でわずかに交わる時。2人の交錯が、冒頭からの映画のスピードに沿って変速されることなく行われることの素晴らしさ。この映画の速さとは、KAIJUが侵攻し人間が立ち向かうことの執拗な繰り返しや、その中で「顧みる」という行為がドリフトという装置に追いやられることでの、まるで後退の機能を取り除くことで得ることができるかのようなスピードであり、あるいは単純な機構で動くマシンのような力強さであり、「やられるからやらなければならない」という意志の野蛮さである。やるべきことがはっきりしているのなら、儀式は出来る限り迅速に行われなければならない。この前のめりな映画は、それこそが(少なくとも私にとっては)現在において勇気を持ち得れる最大の手段ではないのかと思わせてくれるのである。単なる錯覚であるとしても。